社会保険の算定業務で疑問に思うことといえば、通勤手当も報酬に含めることではないでしょうか。
多くの会社では、社員の通勤費自己負担分を通勤手当として支払っていることと思います。
それなのに、通勤手当は社会保険料の対象になってしまっているのです。
なぜ、通勤手当を報酬に含めて社会保険料を算定しなければならないのか。
今回はそんな疑問について調べてみました。
通勤手当は報酬に含めるのか? 【所得税と社会保険料の対象の有無】
まず、通勤手当の考え方についておさらいです。
控除項目 | 対象の有無 |
---|---|
所得税・住民税 | 対象外 |
社会保険料 | 対象 |
(定期券などの実費相当分を通勤手当として支給している場合)
所得税計算時には通勤手当は除いて計算します。
対象外とする理由は、通勤手当は「労働による対価」ではなく、必要経費とみなしているからです。(限度額あり)
一方で、社会保険料の算定(=社会保険料の計算)時には、通勤手当も考慮します。
(6ヶ月分定期代を支給している場合は、6等分した金額を報酬月額に含める。参考)
「自己負担分を手当としてもらっているだけなのに、なぜ社会保険料が控除されるの? 納得がいかない!」
と、思われる方は多くいるのではないでしょうか?
国会でもこの問題について何度か議論されました。(参考)
では、これらの疑問に対して政府はどのような回答をしてきたのでしょうか。
通勤手当を社会保険料の算定に含める理由(政府答弁)
政府が回答した内容をざっくりまとめると以下の通りです。
- 通勤手当の支給は義務ではなく、実際に通勤手当を支払っていない会社もある。(特に中小企業)
- 通勤手当が支払われていない中小企業の社員に不公平
- 対象外にしたら、その分保険料率を上げないといけなくなる。
一言でいうと、「会社が自由に払っているのだから、報酬に含めるのは当たり前じゃん」というところでしょうか。
政府は「御指摘の調査及び検討についても、これを行う考えはない。」と、このルールについて再検討するつもりもないようです。
社会保険料収入を下げるようなルール変更は行いたくないというのが本音なのでしょう。
政府の最大の主張は、「中小企業は通勤手当を支払っていないところもある」という点です。
この点に関して興味深い調査結果があります。
中小企業の通勤手当支給割合
労働政策研究・研修機構(JIL)が、平成25年に民間企業の手当の支給実態について調査しました。
特筆すべきは調査対象です。
調査の対象企業を「1人以上の社員がいる民間企業」とし、日本のすべての民間企業を対象としたのです。
はたして、中小企業は通勤手当を支給していないのでしょうか?
調査結果は以下の通りです。
(調査結果より筆者作成)
約90%の会社が通勤手当を支給していました。
更に、通勤手当を支給していない企業の理由を見てみると、
約30%の企業は、「徒歩圏内の者のみを採用しているから。」という理由でした。
つまり、通勤手当をあえて支給していない実質の企業は全体の約7%程という計算になります。
いかがでしょう?
この7%の企業との不公平感をなくすために、通勤手当を報酬の対象とするというのが政府の主張となります。
個人的には、若干無理のある主張では? と思うのですが、皆さんはどう思われますでしょうか?
まとめに代えて ~「税金」と「保険」の違い~
筆者も、社会保険の算定に通勤手当を含めるのは反対です。
ただ、反対派の主張としてよく言われる「所得税は対象外にしているのだから、社保も対象外にならないとおかしい!」
という意見には納得しづらいです。
理由は、「税金」と「保険」は違うからです。
社会保険料は「税金」ではなく、あくまで「保険」です。
保険の給付を受けるために掛金(=社会保険料)を支払っています。
掛金が増えれば、その分給付額も増えます。
以上のことから、この問題を考える際は所得税とは別の問題として認識すべきだと考えます。
ただ、やはり実費支給という性質上、社会保険料の算定から通勤手当は除くべきだとは思います。
皆さんはどう思われますでしょうか?
【おすすめ記事】