社会保険を短時間労働者にも適用拡大するべきか?否か?
という議論が厚生労働省で議論されています。(2019/3現在)
厚労省は複数の関係団体からヒアリングを実施し、論点整理を行っています。
関係団体の反応を見ると、慎重な意見を表明しているところがほとんどです。
一方で、国は更なる適用拡大を目論んでいるようなので、政治的に判断を下すのが難しい状況になっています。
今回は、関係団体の意見を紹介しながら、社会保険の適用拡大について考えていきたいと思います。
『働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会』
政府は2018年から「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」という会合を開き、
短時間労働者への社会保険適用拡大について議論をしてきました。
この会合では、影響が大きい業種や労働者の団体からヒアリングを行い、関係団体の意見を聞いてきました。
会合の議事録はこちらのページで公開されています。
どの団体も適用拡大には慎重な意見を表明しているところがほとんどです。
意見の内容を団体ごとに一部ご紹介していきます。
一般社団法人日本フードサービス協会
資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000483597.pdf
【主張】
就労調整インセンティブの解消を伴わない適用拡大には反対。
国民年金の未加入・未納問題、国民年金の空洞化対策など、抜本的な取り組みが必要。
【根拠】
- 前回(2016年)の適用拡大で就労調整する社員が増え、労働力不足の原因となった。
- 労働者側も適用を望んでおらず、9割の事業所が労使合意による適用拡大を選択していない。
- 適用拡大による事業主の負担増は企業収益の大幅な落ち込みを強いられる。
UAゼンセン
資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000483657.pdf
【主張】
企業の実務面に障害が無い範囲で、適用拡大を検討すべき。
企業規模要件は撤廃すべき。
【根拠】
- 現在の制度は就労調整する機能がある。
⇒被用者は被用者保険が適用される前提で就労促進につながる制度設計をすべき
全国スーパーマーケット協会
資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488376.pdf
【主張】
社会保険適用拡大は受け入れがたい。
拡大するには企業負担を軽減する措置が不可欠。
(企業負担分を国が肩代わり、事業不振事業者は免除など)
【根拠】
- 売上高営業利益率が業界平均1%前後の業界にとって、これ以上のコスト増は耐えられない。
特に、中小企業は人件費高騰のあおりを受け、非常に厳しい状況。
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ
資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488375.pdf
【主張】
すべての働く人が社会保険の適用になるような働き方改革を望む。
【根拠】
- シングルマザーは収入が非常に少ない。
- 税金や社会保険など配偶者制度の壁がシングルマザーの収入を押し下げている。
- 社会保険が適用されれば、厚生年金や傷病手当金が適用されるため生活の安定に寄与する。
※論点がつかみにくい内容のため、記述内容だけを抜粋しています。
一般社団法人日本惣菜教会
資料:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488377.pdf
【主張】
短時間労働者に年金などの保障を厚くすることには賛同するが、短時間労働者や事業者負担の増大は確実。
慎重な対応が望まれる。
【根拠】
- 前回(2016年)の適用拡大により、就業調整する労働者が増え、働き方の多様化とは逆行した。
- 中小企業への負担が増大すると、雇用に慎重になり、短時間労働者の雇用機会を失わせることになる。
経営者側は慎重な反応
以上、見てきたように経営者側は適用拡大には慎重な姿勢です。
「慎重な対応が望まれる」と多くの企業が表現していますが、内心は大反対していることが紙面からビシビシと感じられます。笑
経営者側が懸念しているのは大きく2点あります。
・企業のコストが増える ⇒ 企業の経営悪化
・就労調整する社員が増える ⇒ 企業の労働者不足が増加
人的コストが増えるし、社員の勤務時間が減る恐れがある。
適用拡大するメリットが企業にとってはほとんど感じられない状況です。
社会保険の手続きもバカにならない業務量ですしね。
全国スーパーマーケット協会が主張するように、経営の良くない企業は適用免除されるなど配慮を求める意見がでてくるのも理解できます。
労働者側の反応(現場目線)
一方で労働者側はどうでしょう?
パート労働者にも社会保険が適用されれば、保障が手厚くなるので歓迎なのでしょうか?
実際にパート労働者の方と直接お話をしてみると、賛成の人はほとんどいなくって、
「扶養の範囲内で働くのが絶対正義!」ぐらいに思っている人が本当に多いんですよね。
確かに扶養から外れて自ら社会保険に加入すると、手取りが15%ぐらい減りますし、場合によっては配偶者の扶養手当が支給されなくなります。
やみくもに適用条件を拡大しても就労調整する労働者が増えるだけで、ますます人不足が加速するだけではないか?
パート労働者を雇う企業の現場目線では、そのように思います。
就労調整が働かない制度はできないものか?
短時間労働者に社会保険を適用するのか?
という問いに対して、唯一無二の答えは無いように思います。
筆者もはっきりとした答えが思いつきませんでした。(結論がうやむやで恐縮ですが、、)
ポイントは、扶養の範囲内で働く就労調整をいかに減らすか? だと思います。
パート労働者の方からお話を聞いている限り、やみくもに適用拡大をしても適用逃れのための就労調整が増えるだけで、人不足が深刻化するだけだと思うのです。
就労調整するインセンティブが働かない扶養の基準ってどうにか作れないですかね?
今後の課題として考えていきたいと思います。