経済小説『バルス』の感想【流通業界の派遣問題を考える】

2018年8月28日働き方

「バルス!」

あの映画でおなじみの呪文の言葉です。
ラピュタ語で「閉じろ」の意味。この呪文の言葉を唱えることで、作中のラピュタの世界は崩壊していきます。

そんな呪文の言葉「バルス」を題名にした経済小説があります。

ネット注文が当たり前となった現代の日本を舞台に、とある一人の行動により日本社会がもろくも崩壊していく姿を描いた経済小説です。
この作品は日本崩壊というテーマですが、決してSFチックな作品ではなく、とても現実感のあるストーリーとなっています。

また、エンターテイメントとしても面白いのですが、日本社会の流通事情と派遣労働に関する貧困問題も学ぶことができます。

今回はそんな経済小説「バルス」のご紹介です。

作者・楡周平について

作者は、楡周平(にれしゅうへい)。
サラリーマン時に執筆したデビュー作『Cの福音 (宝島社文庫)』がたちまち30万部のベストセラーになり、その後専業作家に転身した日本を代表する経済小説作家です。

『バルス』以外にも、多数の経済小説を出されていますが、その中でも『砂の王宮』が面白かったです。

ダイエーを創業した流通王・中内功を題材にした成り上がり経済小説です。
戦後の焼け野原から一代で超巨大流通企業を作り上げた男の一生に興味がある方はぜひ読んでみてください。 

『バルス』のあらすじ

主人公は、ネット通販大手企業(「Amazon」をモデル)の物流センターで働く派遣社員の百瀬。
途絶えることなく注文が来る倉庫内で、商品をピックアップする派遣労働を行っていた。

彼が目にしたのは、徹底的なコスト管理を行う親会社の下行われる過酷な労働環境。実際に倉庫内で働いているのは下請けの社員や派遣労働者で、彼らは安い時給で働き、効率の悪い社員はすぐに首にされていた。

送料無料のネット注文を実現するために、派遣社員が過酷な労働をさせられている実態を百瀬は知った。

そんな時に、ネット通販を狙った大規模なテロが起こる。
高速道路を走行中の複数の宅配便トラックが突如炎上。荷物の中に爆薬が仕掛けられていたのだ。
高速道路は封鎖され、ネット注文の出荷は停止、日本社会は大混乱に陥った。
その後もエスカレートしていくテロ行為。

いったい誰がテロを行ったのか? なぜ犯人は宅配便トラックを狙ったのか?

ネット通販という高度な物流システムを実現するために食い物にされる派遣労働者たち。
そんな現状に警鐘を鳴らす経済小説。

『バルス』の感想

Amazonのビジネスモデルを知れる

作中に登場する会社名は違いますが、この作品ではAmazonの日本国内の労働環境を描いています。
この作品を読むことで、低賃金の派遣労働と高度な物流システムに支えられるAmazonのビジネスモデルを知ることができました。

翌日配送&送料無料を実現するために徹底したコスト管理を行うAmazon。
のドライさは日本企業ではなかなか想像できないレベルでした。

普段何気なく利用しているAmazonの労働環境を知ることができます。

 

ネット注文が当たり前の現代において起こる派遣社員の問題

あらすじにも書きましたが、この作品が提起する社会問題は、

ネット通販という高度な物流システムを実現するために搾取される派遣労働者。

です。

安い賃金で働かされ、簡単に切り捨てられる非正規社員。
そんな非正規社員の割合も労働者の内40%近くまでになりました。参考
今や非正規労働者があってこそ日本経済が成り立つまでになったと言っても過言ではないと思います。

この本を読むと、自分たちの何気ない日常は多数の非正規労働者によって支えられていることに改めて気づかされます。


人事の仕事をしている以上、労働問題にアンテナを張り巡らせ、問題に対して最適解を考え続ける責任があると思っています。
派遣社員が置かれた現状を知り、貧富の格差を考える上で、この作品は良い教材となる気がします。

最後の解決策は個人的には納得いきませんが、エンターテイメントとしても楽しめますので、人事関連の仕事をされている方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか?


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