「働き方改革」の流れで、教員の労働問題が昨今注目されています。(2019年2月現在)
特に、労働法上問題とされているのが、私立学校教員の労務管理についてです。
私学経営研究会が実施した私学教員に関する調査では、私学教員の過酷な労働事情が浮き彫りになり、様々なメディアで取り上げられました。
今回はそんな私学教員の労務管理問題についてまとめていきます。
(この記事では高校教員に的を絞ってご紹介します。)
問題は労働基準法に逸脱している働き方がされているということ
まず、何が問題になっているのか?
結論から申し上げると、以下の点です。
・ 三六協定未締結なのに、残業が常態化
・ しかも、残業代が正しく支給されていない
私立学校の教員は、民間企業の社員と同様に労働者扱いです。
つまり、三六協定を結ばずに残業させてはいけないし、
残業した場合は残業代を支給しなければなりません。
多くの私立高校ではこれら労働法のルールに適した労務管理がなされていないことが、今回の調査で判明しました。
では、実際にどれぐらいの高校が未対応だったのか?
調査結果をこれからご紹介します。
調査の概要
議論のきっかけとなった調査が、「第3回 私学教職員の勤務時間管理に関するアンケート調査報告書」。
実施した機関は、社団法人・私学経営研究会です。
調査対象 | 全国の高等学校 約1,000校 |
調査期日 | 2017年6月~7月 |
回答数 | 332校(高等学校) |
同時に私立大学へも調査を実施していますが、この記事では私立高校に絞ってご紹介します。
この調査の中で労働問題に関する回答結果をこれからご紹介していきます。
専任教員に対して三六協定を結んでいるか?
《三六協定の締結状況について》
回答内容 | 学校数 | % |
---|---|---|
三六協定締結(時間外・休日出勤) | 172 | 52.0% |
時間外のみ三六協定締結 | 4 | 1.2% |
休日出勤のみ三六協定締結 | 2 | 0.6% |
三六協定を締結する予定なし | 95 | 28.7% |
検討中(準備中を含む) | 54 | 16.3% |
過去に締結していたが、今は締結していない | 2 | 0.6% |
その他(詳細な回答なし) | 2 | 0.6% |
合計 | 331 | 100% |
(調査結果より筆者作成)
色を付けた項目が三六協定未締結の項目です。
未締結でも残業していなければ問題はありません。
逆に、残業をさせていたら法的に問題となってしまいます。
では実際に、私立教員はどれほど残業しているのでしょうか?
専任の私学教員はどれぐらい残業しているのか?
《残業状況について》
回答内容 | 学校数 | % |
---|---|---|
頻繁にある(週2日以上) | 74 | 22.4% |
時々ある | 70 | 21.2% |
常態的にある(ほぼ毎日) | 66 | 20.0% |
時間管理ができていないので不明 | 42 | 12.8% |
繁忙期のみある | 41 | 12.4% |
(回答数が多い順に5回答のみ抜粋)
私学教員の多くが残業をされているようです。
「時間管理ができていないので不明」というのは、学校法人の人事担当者に向けたアンケートですので、このような回答が存在します。
未だに、「教員は労務管理不要」と考えている学校法人が一定割合存在することが分かります。
では、次に残業をしている教員に残業代は支給されているのでしょうか?
専任教員に残業代は支給しているか?
《時間外手当の支給状況について》
回答内容 | 学校数 | % |
---|---|---|
法定の時間外手当を支給 | 40 | 12.1% |
教職調整額を既払い残業代とみなし、超過分は残業代を支給 | 35 | 10.6% |
教職調整額を支給しているため、残業代は未支給 | 80 | 24.2% |
定額の業務手当を支給しているため、残業代は未支給 | 54 | 16.4% |
教職調整額と業務手当を支給しているため、残業代未支給 | 97 | 29.4% |
(回答数が多い5回答のみ抜粋)
色を付けた回答項目が残業代を正しく支給していない項目です。
今回の調査だと70%近くの学校が残業代を正しく支給していないことになります。
すごい割合ですね。
この問題のキーポイントになってくるのが、回答項目内にある「教職調整額」という言葉です。
これはいったいどのような手当なのでしょうか?
教職調整額とは?
この手当は本来、公立学校の教員に支給される手当です。
「給特法」(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)という法律があります。
この法律が存在することにより、公立学校の教員たちは労働基準法が適用されません。
公立教員が残業した場合、基本給の4%を手当として支給していれば、残業代を支給しなくても良いのです。
この基本給4%の手当が「教職調整額」です。 (2019年2月5日現在)
私立学校はこの法律の適用対象外なのですが、多くの私立学校でこのルールが踏襲され、残業代が支払われていませんでした。
本来、残業代を支払う義務があるにもかかわらずです。
その結果、昨今多くの私立学校が労基署からの是正勧告・指摘を受けています。
残業代が未支給として労基署の勧告を受ける学校が多い
《残業・休日手当に関する労基署からの立入調査の結果》
回答内容 | 学校数 | % |
---|---|---|
立入調査なし | 253 | 76.4% |
調査はあったが、指導・是正勧告どちらもなし | 29 | 8.8% |
指導のみあり | 17 | 5.1% |
是正勧告あり | 32 | 9.7% |
合計 | 331 | 100% |
立入調査を受けた私立学校を見てみると、残業代に関してお咎めなしの学校よりも、是正勧告を受けた学校の方が多いことが分かります。
是正勧告の内容は残業代未払いに関することがほとんどです。(参考)
今回ご紹介する調査内容は以上です。
その他にもさまざまな調査がされているので、興味がある方はぜひ全文を見てみてください。
今回の調査で、多くの私立学校教員が労働関連法に適さない状況の中で勤務していることが分かりました。
教員は聖職のように思われているのか、民間企業に比べて労働問題に関する議論が進んでこなかった印象を受けます。
昨今の働き方改革を受け、今後は政府の中央教育審議会が中心となり教員の労働問題が議論されていく予定です。
今後の動向にぜひとも注目していきたいと思います。