2011年に日中間で協議を開始してから8年、ようやく「日中社会保障協定」が2019年9月に発効されました。
これにより、中国に派遣された従業員が日本・中国それぞれの年金保険料を支払う「二重払い」が解消されます。
今回はその内容についてご紹介します。
そもそも社会保障協定とは?
という方は、こちらの説明が分かりやすいです。
「日中社会保障協定」発行までの経緯
日本と中国の社会保障協定については2011年から協議をしています。
なぜ2011年から始まったか?
というと、中国が2011年に社会保険法という法律を施行したからです。
この法律は中国の社会保険制度の基本法。
条例によりバラバラに制定されていた社会保険に関する制度を一括に規程しました。
それに先立ち日本と中国は社会保障協定の締結に向け、議論していました。
しかし、政治的対立が高まり、交渉は一時中断。
8年の歳月をかけてやっと協定が発効されました。(2019年9月1日)
「日中社会保障協定」の内容
- 公的年金のみが対象(医療保険や雇用保険対象外)
- 日本の「国民年金・厚生年金保険」、中国の「都市従業員基本養老保険」被保険者が対象
- 5年以内の一時派遣者は本国の公的年金のみに加入。→保険料の二重払い解消
- 「年金加入期間の通算」規定はなし
この協定発効により何が変わったのかについてご説明します。
ある日本企業の従業員が中国支社に派遣されたとします。
派遣される期間は5年未満の予定。
before
日本と中国両方の年金制度に加入
日本 | 中国 | |
---|---|---|
年金 | 〇 | 〇 |
健康保険 | 〇 | 〇 |
雇用保険 | 〇 | 〇 |
「〇」が付いている制度には加入する義務があります。
日本と中国それぞれの年金制度に加入する必要があるため、両国に保険料を納めなければなりません。
しかも、中国の年金を受給するためには、15年の加入期間が必要です。
つまり、5年そこそこで日本に帰ってきてしまったら、中国の年金はもらえず、保険料を掛け捨てしていることになります。
after
日本 or 中国どちらかのみの加入でOK(年金のみ)
日本 | 中国 | |
---|---|---|
年金 | 〇 | - |
健康保険 | 〇 | 〇 |
雇用保険 | 〇 | 〇 |
5年以内の一時派遣なら、中国の年金加入は免除されます。(日本の年金のみ支払い)
逆に、5年以上中国に派遣される場合は、中国の年金制度のみに加入します。
これにより二重払いが解消されました。
年金保険料は企業と個人が折半しているので、労使ともに負担が減ることになったのです。
「日中社会保障協定」の注意点
・二重払いが解消されたのは年金制度のみ
表からも分かるように、医療保険や雇用保険等は引き続きどちらも加入する必要があります。
社会保障協定は各国別に協定内容が異なります。
例えば、日米間だと医療保険もカバーされているのですが、日中間では年金だけがカバーされています。
健康保険料の二重払いは、日中間では存在したままです。
・年金加入期間の通算はしない
年金加入期間の通算の有無も協定で定めることができます。
中国は、日本を含めたすべての国との協定において、通算はしておりません。
制度が複雑すぎて、通算作業をすることにしたら協定の発効が遅れてしまうため締結を優先したそうです。
国内の情報整理が進めば、今後期間を通算することになる可能性もあります。
「日中社会保障協定」の必要な手続き
必ず日本年金機構に申請を行う必要があります。
日本→中国に派遣された社員
② 発行された「適用申請書」を中国の社会保険料徴収機関に提出
協定発効時の2019年9月1日より前から中国に派遣されている従業員についても、同様に適用証明書を提出する必要があります。
中国→日本に派遣された社員
② 適用証明書を日本の年金事務所に提出
同様に、2019年9月より前から日本で就労している従業員についても、適用証明書を提出する必要があります。
この協定発効により日本企業は550億円の負担軽減
日本人が長期滞在している国の中で、中国はアメリカに次ぐ2番目の多さです。
(海外在留邦人数調査統計平成30年版より筆者作成)
外務省の試算によると、今回の協定により日本企業は年間で550億円の負担軽減がされるそうです。(参考)
政治的に対立が続く日中ですが、この協定により中国に派遣される日本人が一層増加するかもしれませんね。