企業の給与担当者が知っておくべき賃金に関する判例3選【労働法】

2018年6月21日給与

今回は、給与担当者が知っておくべき賃金に関する裁判例を3つご紹介します。
賞与・退職金・賃金制度をそれぞれ取り扱った判例です。

今回は自分の勉強のためにまとめております。
私自身も法律家ではないので、専門的なことまでは記載しておりません。(できません。。)
ざっくりとした概要だけをまとめております。
これから労働法について勉強される方々が勉強のひとつのきっかけになればいいな」という思いで記事を作成しております。
その点ご了承ください。


大和銀行事件《賞与支給日の在籍要件》

テーマ

賞与の支給日在籍者条項の取り扱い
「支給日に在籍していないと、賞与を受け取れない」っていうルールは違法じゃないの?

事件の概要

昭和54年5月31日に大和銀行を退職したAさん。
会社は年二回・6月と12月に賞与を支給していた。
6月の賞与は前年の10月から今年の3月までの査定に基づき支払われる。
その期間Aさんは在籍し、ちゃんと仕事をこなしていた。しかし、6月の賞与は支払われなかった。
なぜなら、「賞与は支給日に在籍している者に支払う」という就業規則が定められていたためだった。
しかも、この規則はその年の昭和54年5月1日に定められたばかりだった。
会社は今までも支給日在籍者のみに賞与を支払っており、今回はその慣行を明文化しただけだと説明。

6月の賞与を支給されなかったことに納得のいかないAさんは、大和銀行を相手取り賞与の支払いを求めた。

判決

最高裁:昭和57年10月7日

Aさんに賞与を支払わなくてよい。
もともとその会社には支給日在籍者に賞与を支払う慣行が存在しており、今回の改訂は慣行を明文化しただけ。

解説

賞与とは過去の労働に対する対価(=賃金)なのか? という点が今回の裁判で争われました。
判決では、賞与は労使間の合意や使用者の決定によってその都度決められるものとして、賃金とは性格が異なるとしました。
つまり、賞与に関しては会社それぞれのルールに従うべきと判断したのです。
今回の事件では、会社が労働組合と協議して過去のルールを明文化しただけでした。そのため、支給日に在籍していないAさんに賞与を払わないのは合理的だと判断しました。
賞与の支給日在籍者要件が司法によって支持された裁判でした。

こういった争いが起こらないように、賞与や永年勤続者への現物支給などの一時金の支給条件をしっかりと定めておきたいものです。
参考


 

三晃社事件《競業避止義務違反の退職金》

テーマ

競業避止義務違反の退職金減額措置について
ライバル会社に転職した社員の退職金を半減することはOK?

事件の概要

三晃社という広告会社に勤めていたBさん。彼は、ライバル会社への転職が決まり、現在の勤務先を退職することに。
しかし、彼の勤務先では、「同業他社に転職した場合には、退職金を通常の半額にする」という定めがあった。
そこでBさんは現勤務先には次の転職先を内緒にして、満額の退職金をもらいました。
後で、ライバル会社への転職を知った三晃社はBさんに退職金の半分を返還してもらうよう裁判を起こした。

判決

最高裁:昭和52年8月9日

会社によるBさんへの退職金半額措置は違法ではない
会社が一定期間、同業他社への転職を社員に制限したとしても、直ちに社員の職業選択の自由を拘束することにはならない
退職金が功労報酬的な意味合いがあることも考慮すれば、今回の措置は合理性が無いとは言えない。

解説

退職金にはいくつかの性格を有しています。

【退職金の性格】
  • 賃金の後払い:今まで働いてくれた分ね。
  • 功労報償:今まで貢献してくれてありがとね。
  • 生活保障:これからの生活の資金にしてね。

このように多様な性格を含んでいる退職金は、会社によって三者三様の解釈・基準が独自に設けられています。
懲戒解雇時の支給の有無や、自己都合と会社都合の支給率の差別などがその一例です。
そういった退職金のルールは労使間で自由に決めるものであり、それらのルールが合理的である限り有効。と、判断したのがこの判例です。

今回の事例でも、ライバル会社への転職をある程度制限するのは、「直ちに職業選択の自由を不当に拘束するものではない」として、会社のルールを支持しました。
労働者からしてみれば、「転職するなら同じ業界の会社しか雇ってもらえないだろう!それを制限するのか!」という気持ちもすごく分かりますが。。

ちなみに、ライバル会社に転職した社員の退職金を全額支給停止した事例を否定した判決もあるようです。(中部日本広告社事件)
合理的とされる線引きが難しいところですね。

効率性を考えると、ややこしい「退職金減額措置」なんか設けず、社員のリテンションに力を入れた方が効率的な気がします。。
参考


 

ハクスイテック事件(能力主義賃金制度導入による不利益変更)

テーマ

能力主義賃金制度の合理性
年功序列型賃金から能力・成果主義型への賃金制度の移行は不利益変更なのか?

事件の概要

ハクスイテックという化学品メーカーが赤字経営からの脱却策の一つとして賃金制度の改革を行った。
年功序列型賃金から、いわゆる能力主義賃金に制度変更したのです。
会社は平成8年よりこの制度を導入したが、向こう10年間は経過措置を設け、8割ほどの社員は実質賃金が増額するようにした。
しかし、中には給与が下がる人ももちろんいる。(評価が極端に低ければ)
これらの給与制度変更は不利益変更だとして社員Cさんが訴えた裁判。

判決

大阪高裁:平成13年8月30日

今回の給与制度変更は高度な必要性に基づいた合理性がある。
給与制度変更は無効とは言えない。

解説

年功序列型から能力主義賃金への変更の合理性が問われたこの裁判。
まず、年功賃金を能力主義賃金に変えるのは不利益変更にあたるとされています。
「給与が下がる可能性がある」というだけで、不利益に該当するのです。
厳しい基準ですよね。。

そして、不利益変更に該当するのであれば、「高度の必要性」と「経過的措置」が求められます。
今回は収支改善が緊急の課題であったという必要性があった。
また、経過的措置を導入し、8割ほどの社員は実質増額になった。
以上の点から、能力主義への変更は合理的として、会社側を支持しました。

この判決文の中で印象に残ったのは、成果主義について書かれた部分。
裁判所は年功賃金を批判し、成果主義を支持しているのです。
「近時我が国の企業についても、国際的な競争力が要求される時代となっており、一般的に、労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、労働生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求められていたといえる。」

労働生産性と結びつく合理性のある賃金制度を司法は求めているようです。

参考


今回は以上3つの賃金に関する判例をご紹介しました。
今回の判決がほかの企業にもそのまま当てはまるのか? というと、そうではないのが難しいところです。給与に関しては一般的な正解が見つけづらく、個別具体的にそれぞれ判断していく必要があります。
何よりも社員への説明と対話が企業には必要なのだなと改めて感じさせられた判例でした。